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真空ポンプにスケールが付着しやすい用途
化学工業、薬品工業、食品工業では、通常は真空ポンプで引くのはガス及び凝縮性ガスですから、真空ポンプの中での相変化はせいぜいミスト化液化までです。然るに多くはありませんが、固形化成分を引く場合もあります。
高沸成分を飛ばしきる引き切り操作などの高真空用途(1〜30Torr)では、高沸成分の内の昇華物がいささか面倒となります。これら昇華物は真空ポンプ内での昇圧段階のどこかで固形化し、真空ポンプ内部に付着することになるからです。
また、化学工業用途では、昇圧段階で重合物が発生する場合もあります。ポリマーも総じて付着しやすいものとなります。
気体、液体と違って凝固物、析出物等の固形化するスケールが付着蓄積すると、真空ポンプは性能低下並びに回転不能、運転不能となります。
- 機械的真空ポンプは固着回転不能となる
機械的真空ポンプはその作動原理上必ずポンプ内部で極めて小さい隙間の摺動面を持ちます。これは内部漏れを防ぐためのもので、ローターとステーターとの隙間です。ルーツ型ではローター同士での小さい隙間で相対運動をしています。このような機械的真空ポンプに付着物が固着すれば回転不能となります。運転中は回転不能にならずとも、停止すれば次の起動では回転不能となることが現実にはよく起こります。
回転不能となれば、分解掃除しか方法がありません。後述のスケール溶融方法は機械的真空ポンプの場合はかなり難しく、分解掃除しか方法はないのですが、これら高真空用真空ポンプで内部多段の構造の真空ポンプでは、まずユーザー殿では分解掃除は不可能に近いでしょう。予備機を持っても、頻繁に回転不能となれば、処置なしとなります。
- ジェットリングの長所
ジェットリングは前段がスチームエゼクターで、運動部分がない機種です。そして、昇華物等が固形化しやすいのはスチームエゼクターと水環真空ポンプの間のインターコンデンサーとなります。スチームエゼクター自体もスケール付着は起こっても運転不能になるものではありません。
コンデンサーは多管式であり、内容積が大きくスケール付着はしても運転には直接関係はなく、コンデンサー能力の低下のみです。従って、冬に比べて夏に能力低下が起こる程度です。なによりも重要なことは固着回転不能は運転不能でありプラント停止になるわけですが、ジェットリングにおいては付着が進行しても、性能低下に現れるまでは相当時間がかかり、しかも、性能低下は運転不能とは問題のレベルが異なります。その上、ジェットリングでは以下の付着物除去の対策法が容易に取れます。
5.4.@のフローシート参照
- 付着物除去方法
ジェットリングでは付着物除去方法が容易に取れます。上述のように昇華物を吸引する用途では必ず付着は起こるわけですが、固化付着物はコンデンサー内に蓄積させるのが除去しやすいことになります。これらは溶かして液化して流し落とせば容易で以下の方法で取れます。
- 過熱溶融
ジェットリングではスチームで運転するわけですから、運転を停止しコンデンサーの冷却水を止めてスチームを流せば容易に加熱することが出来ます。大気圧まで加熱して100℃で通常はまず液化できます。さらにコンデンサー下部のスケール排出弁を加減して数キロの圧力までスチームを加えれば、150℃程度までは加熱可能です。またスチームエゼクターもコンデンサーもそれだけの耐圧強度を有しています。
- 昇華物等の多くは水溶性でもありますから水洗の手法も取れます。
- 薬品に簡単に溶ける場合は薬品洗浄も有効な手段です。
コンデンサー上部に洗浄薬品注入口をつけるのも容易です。
- これらの、液化し溶かして取り除くという方法が取れない場合、例えば重合物等ではコンデンサーをU字管タイプとして、付着物除去作業を容易にすることも出来ます。
- その他の手法
フローシートのエゼクターではディフューザーの前半はスチームジャケット付となっています。これは高真空用途、氷の蒸気圧よりも低い圧力にて吸引する用途では、凍結防止のためにこのようにジャケット付としています。エゼクター内で圧力的に固形化付着しやすいものを吸引する場合はエゼクターをフルジャケット式として運転中はスチームによる加熱で付着しないようにすることも出来ます。
ジェットリングにおいて後段を受け持つ水環真空ポンプではこのような付着はあまり起こりません。スケール発生及び付着蓄積のほとんど全てはコンデンサー内で生じて、そこに蓄積し、水環真空ポンプまでは飛んで来ないからです。また、水で運転するが故に隙間も大きく、少々付着しても、問題になることも少ない、ということが実績上わかっています。
- 豊富な実績
以上のように予想されるスケールに対応した付着物除去の対策法を加えた真空排気装置の設計製作がジェットリングでは可能です。 付着物対策でも叶環技研は豊富な実績を有しています。