5.1.A 凝縮性ガスは湿式真空ポンプで

  1. 化学、薬品、食品工業用の真空ポンプ用途では、ほとんどの場合水蒸気や有機ベーパが同伴されます。これらの凝縮性ガスが同伴される場合の注意事項は、どの段階で凝縮し液化するか、と言う点です。
    真空ポンプ内で凝縮性ガスが液化してミストとなると、真空ポンプに機械的損傷を与える場合が出てきます。元々ガスポンプは、ミスト、液体の吸い込みに弱い点があります。そのガスポンプにミスト、液体が発生する時、単純強度以外にポンプ構造によってはキャビテーションのような現象を起こす場合が出て来ます。損傷個所は、一見局部腐蝕のように現れることが多いのですが、広義のキャビテーションと見なす内容のものです。その局部腐蝕が原因で、回転不能事故となることもあります。
    この局部腐蝕として現れるキャビテーションの他に、広い範囲で腐蝕が現れることもあります。通常は、腐蝕性を現さないガス成分がミスト、液体の存在によって腐蝕性を発揮する場合があるからです。ウェット状態になれば腐蝕性を発揮するガス成分も予め予測しておく必要があります。

  2. 化学工業等では、真空度、吸込圧力の関係上、真空ポンプは1段では不可能で、2段、3段となることが多くなります。
    多段構成の真空ポンプには、例えばメカニカルブースター+エアーエゼクター+水封式真空ポンプの3段構成のように、それぞれ別のタイプの機種の組み合わせによる連段真空ポンプが存在します。これに対して、例えば同じルーツでありながら、ポンプは1台で内部で3段に区切られたようなタイプのガスポンプも存在します。
    凝縮性ガスを吸い込む場合の機械的損傷の危険性に関しては、別機種のポンプを多段に構成するものに比べて、ポンプ内部で多段としているタイプの方がずっと危険性が高くなります。これらの内部多段の真空ポンプは当然のことながら、空気テストデータを基本に設計されているからであり、化学工業等に見られる種々の凝縮性ガスのあり方に対応するには、無理してポンプ1台に構成しているために難しい面があるからです。
    更に、内部多段の真空ポンプは、ユーザー殿の手では分解掃除点検がほとんど不可能という問題もあります。

  3. このように凝縮性ガスにより真空ポンプの機械的問題を予め検討しておかなければならないのですが、この点で湿式の真空ポンプ、即ち水でガスで圧縮する水環真空ポンプは、初めから機械的問題では検討不要と言うことになります。これが凝縮性ガスの吸い込みに対する、湿式真空ポンプの大きな利点となります。更に、凝縮性ガスの存在によって、腐蝕性を発揮するかも知れないガス成分の存在に対して、耐蝕材での製作、或いは要部のみステンレス製とするようなことも可能となります。
    合わせて凝縮性ガスの持つ潜熱量は、熱量としては相当大きなものであり、多くの場合ポンプ圧縮熱に匹敵、乃至それ以上の熱量となるものですが、湿式真空ポンプではその熱除去に関しても有利となります。

  4. 真空ポンプの選定で、凝縮性ガスを含む場合は、特に運転真空度の変化幅が大きい場合等で代表仕様を決めるのが難しい面はありますが、且つまた詳細ガス名を秘密にせねばならない場合もありますが、しかしながら最低限真空ポンプメーカー側に検討せしめるためには、以下の点だけは仕様書に明記して下さい。
    代表仕様とする運転真空度とそこでの不凝縮性ガスと凝縮性ガスのそれぞれの量と比率、平均分子量を出して下さい。この場合、重量表示とそのその真空度での容積量表示と両方を計算してみて下さい。両方を計算することで、代表仕様のガスの状態がより明確となります。この代表仕様で真空ポンプメーカーに性能は勿論、機械的な問題も含めて保証せしめる見積検討を要求をするのが良いかと思います。

  5. 尚、凝縮性ガスと単純に書いてきましたが、厳密にはやや定義の難しい点があります。個々の真空ポンプ内部で凝縮するか否かが、その真空ポンプにとって凝縮性ガスなのですが、この検討判断は個々の真空ポンプメーカーに任せて、ユーザー殿は常温大気圧まで圧縮すれば凝縮するようなガス成分と考えて下さい。


200JR―1ST+SKH782T.C
空気相当 83 m3/min × 10 Torr (1.33KPa)
凝縮性ガスを含む多成分系ガス
全 SUS 304 製 (真空ポンプのみインペラーステンレス製)




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